q.天上の音楽
『q.天上の音楽』第1巻発売を記念して、著者の植下先生に突撃インタビュー!!
11/27に発売となった『q.天上の音楽』。少女とヒューマノイドが音楽を通じて強烈に感情をぶつけ合う、第26回電撃大賞 電撃コミック大賞《金賞》受賞の植下先生の新進気鋭の商業デビュー作。
多様な要素が絡み合う本作について、何を考え、何を想い、本作を描かれているのかを、植下先生に伺ってみました!

――本作は、「少女×少女×ヒューマノイドの近未来SF青春音楽ストーリー」と、とても欲張りなキャッチがついておりますが、ずばり、本作の見どころは?
植下先生:
全部です!(欲張り)…と言いたいところですが、それじゃ答えにならないですよね。
色々な要素がありますが、一番味わってほしいのは、全てを踏まえた上での「こんなときどうする?」という問いだと思います。
この作品を描くにあたっては、舞台である近未来の世界観や、音楽とテクノロジーの発展の描写、人とヒューマノイドの関係性といった大きな要素だけを追っても楽しめるように考えています。
その上で、憬やシオンやキリエといった登場人物ひとりひとりのミクロな立場でそれらを目の当たりにし たとき、どう感じるのか、どう行動するのか、そして読んだ方はどうあって欲しいと感じるのか、その過程が一番面白いと思います。

ヒューマノイドが原因で、一緒に頑張ってきた親友が別の道に。こんなとき、どうする…?
――本作は、音楽を扱った漫画としては珍しく、AI やヒューマノイドが出てきますね。 そこに注目した理由は何ですか?
植下先生:
実は順番は逆で、ヒューマノイドを描くということを先に決めていて、それから音楽を題材にしようという流れで……。
※厳密には一緒くたにできないとは思いますが、ここではAI=ヒューマノイドの中身としてお話しします。
最初に、AIに一番やってほしいこと、やってほしくないことは何だろう?と考えました。現代では「AI が仕事を奪う」という風潮が話題ですが、一方で「面倒な仕事は全部 AIに任せちゃいたいな〜」という気持ちも大いにあると思っています。
この一見矛盾した傾向の中にあるのは、「おいしいとこだけ自分でやりたい」ということではないか、と。
じゃあ「おいしいところ」……「楽しいこと」「美しいこと」、つまり感性に関わる芸術すらも AI がやるようになったらすごく嫌かも、と思いました。そういう発想から、音楽を題材に描くことになりました。
また、そもそもなぜ仕事を奪われたくないと思うのかというのも気になって。
仕事って100%嫌なだけとも限らなくて、仕事によって人と関わること、承認されること、自分の力を確かめることができる面がある。仕事にも「おいしいところ」があるんじゃないかなと思うんです。
AI が奪うのは仕事そのものではなく、そうした人との関りや自分への慈しみ……はっきり言うと、愛なのではないでしょうか。
感性と愛とは正負を問わず密接な関係にある概念だと思います。感性の領域にAIが切り込むとき、略奪される愛は一層根深いものになるのかもしれません。
そういうわけで、本作では「大事な人との繋がりをAIに奪われたらどうする?」ということを描きたいし、読んだ方にも思い悩んでほしいな思います。

音楽以外でも、様々な職種でヒューマノイドが登場します。
――AI やヒューマノイドを扱った作品は様々とあると思いますが、 作品によって「機械らしさ」「人間らしさ」のバランスが違っているのが面白いところだと思います。その意味で、本作のヒューマノイドはかなり「人間らしい」と思うのですが、それは何故ですか?
植下先生:
ヒューマノイドを描くにあたり、何をもって「機械」とするんだろう、一番の特徴は何だろう?と考えました。そこで、人との決定的な違いは「目的のために作られた」と言うこともできるんじゃないかと思ったんです。
きっかけは、2019 年の学生ロボコン※を観戦していた時のことで……。それまで順調に勝ち進み、優勝候補だった東大チームが不意のアクシデントにより敗退された際のインタビューで「優勝するためのロボットなのだから、優勝しなければ意味はありません」と答えていらしたのが非常に印象に残っています。
どんな機械も、たとえ「作るのが楽しいから作った」という単純な理由であろうとも、誰かの「作ろう」という目的がなければこの世界に生まれてくることはありません。目的は製作者や使用者から授けられ、それに沿った形を与えられます。
一方で人間も、現在のところは親の行為と意図によって生まれてくるのは同じと言えるかもしれません。しかし、生きる目的は自分で変えたり決めたりすることもできるし、何なら無くても生きていけます。
そこで、目的の実現のための行動決定機関として、設計可能な機械で脳を代替し、他の部分は人と同じように活動できるヒューマノイドという存在を描こうと考えました。 違いを描くために他の部分は同じ方が際立つと思っているので、かなり「人間らしい」部分が多くなっているんだと思います。
※ロボコン … ロボットコンテストのこと。

ヒューマノイドが音楽を弾くのは、日銭のため?それとも弾くこと自体が目的?
――植下先生は、本作が商業デビューですが、オリジナルの同人作品でも 「機械と人間」を扱ったものが多い印象です。 (電撃大賞の受賞作「ふたつの心臓」も、AI 入りの義足と人間をテーマにした作品でしたね)
何が植下先生を引き付けるのでしょうか?
植下先生:
先に挙げたように、本作では機械の大きな特徴は「目的・用途が決まっていること」だと想定しています。
でも、人間は機械を見た時に目的のことだけを考えるわけではないとも思います。「はたらくくるま」と擬人化して言ってみたり、掃除用のロボットがかわいく見えたり、路上に打ち捨てられていると可哀そうに思ったりする。逆に、ポンコツだったら怒って叩いたりとか、その後なぜか謝っちゃったりとか。まるで心があるように考えています。
それっていつでも他者との関りを望んでしまうさみしい人間の性質なのかもなと思いますし、そんな人間の性質が面白いから描きたいなぁというところです。
『q.天上の音楽』におけるヒューマノイドは目的に沿った自律的思考ができますが、これは心があるように思われるのか、読んだ方の印象が気になります。

AI搭載の義足とバレリーナ少女の関係を描いた『ふたつめの心臓』
――一方で、主人公の憬と、その幼馴染であり、かつてのパートナーでもあるシオンとの、 ただならぬ感情のうねりも魅力だと思います。 これは、「ただの友達」以上のモノを、期待してもよいのでしょうか!?
植下先生:
そうですね。ひとまず憬がシオンを諦めることもシオンが憬を諦めることも絶対にないので、そこはご期待ください。大好きなので。
ただ、第1話以前のふたりだけではおそらくどん詰まりになっていた状況だと思います。好きだけじゃどうにもならない関係って苦しいですね。好きであればあるほど奪われたくないと思うわけですし……。
ヒューマノイドがきっかけとなって一度は破綻したわけなので、ヒューマノイドのことを解決しなければ前に進まないのではないでしょうか。つまりキリエが関わらなければどうにもならないんですが、関わることで余計ややこしくなるんですよね。
キリエの視点から見るふたりも面白いと思いますので、お楽しみいただければ嬉しいです。

協奏のペアでもあり、幼馴染でもある憬とシオン。物語はシオンがピアノを辞めるところから始まります
――どういった人におすすめの作品ですか?
植下先生:
どうしようもない感情に悩まされている人に読んで欲しいなと思います。
ヒューマノイドとの関係、音楽との関係、大事な人との関係、どの要素もしっかり描いていきますので、どれかがお好きだったらぜひ読んでみてほしいです。全体としてはそれらの関係の中に生まれる感情のままならなさ、叶った時のうれしさ、奪われたときの苦しさがぐるぐるしながら進む話になります。名づけられない感情にどんな答えを出すのか、登場人物たちの選ぶ行き先を一緒に見届けてもらえたらと思います。

プラスもマイナスも、とにかく感情の表現が凄い!
――最後に読者の皆様に一言 !
植下先生:
『q.天上の音楽』は、憬がシオンと音楽という彼女にとってかけがえのないものを奪われたところから始まります。第 1 巻では、どんなにそれが大事なのか、いかにしてそれが奪われるのかを一冊分かけて楽しめるようになっています。そして今後のお話では、人と機械との関わりの中でどうやってそれを取り戻すのかを描いていく予定です。
精一杯考えながら描きますので、みなさんもぜひ三人を応援していただけたら嬉しいです。気になったらぜひ単行本を買って楽しんでみてください!
植下先生、ありがとうございました!
感情を音楽にのせてぶつけ合う鮮烈な本作、是非単行本でお楽しみください!!

q.天上の音楽 1
植下
発売日:2020年11月27日
【紙書籍版】定価(本体670円+税)
【電子書籍版】希望小売価格(本体670円+税)
発行:株式会社KADOKAWA